書店風雲録

ジュンク堂書店員の仕事を知るで知った。
「書店風雲録」は、田口さんが、愛知県ではあまり馴染みがない大型書店「リブロ」にいた頃を回想した内容。図書館で借りて読んだ。

書店風雲録

書店風雲録

ちなみに文庫化されている模様。
書店風雲録 (ちくま文庫)

書店風雲録 (ちくま文庫)

P.202
 それはさておき、その「今井棚」の象徴のような書棚「CONCORDIA」をどうつくったかを今泉に聞いてみた。


 CONCORDIAの狙いは「世界の知の流れ」を立体的に表現、っていうところかな。だから結構試行錯誤した。何度も何度もつくりなおしたし、棚の中のフェアもよくやった。一番よく覚えているのは、そうだなあ、「思想としてのキリスト教」だろうな。従来のキリスト教史の裏には神秘主義思想、まあアンチ正統キリスト教の水脈が流れていて、この宗教大河の表裏が分からないと西洋思想史が理解できないんだ。現代思想だってフーコードゥルーズばかりじゃなくて、ベンヤミンやショーベンのユダヤ思想が入っている。だから正統キリスト教史に神秘主義を加え、トマス・アクイナスやシュタイナーのアンチ合理主義、ノヴァーリスの作品、いろんな視点からの本を入れた。あのヘーゲルだって若い頃は神秘主義に惹かれてた時期があったんだ。キリスト教の奥は深いよ。


 神秘主義を取り入れた「思想としてのキリスト教」の棚の裏は?


 分析哲学アリストテレスの流れのね。あの分析哲学の教祖のように言われるヴィトゲンシュタインだって、大きく見ればアリストテレスの流れに含まれるだろう。元をたどればギリシャからきているんだ。僕はこの考え方をアメリカのラヴジョイの『存在の大いなる連鎖』(晶文社)を読んで影響を受けたんだ。ヨーロッパの思想は大きく見ればアリストテレス的なものとプラトン的なものの流れが交互に表面に出てくる。相互の繰り返しなんだ。実証と理念のね。


 そうするとこのキリスト教分析哲学の間の棚は?


 ヒストリー・オブ・アイデア。ネオ・プラトニズムだよ。一方に大河の表裏を持つキリスト教思想、そしてもう一方にはアリストテレス的系譜とプラトン的系譜の相互の入れ替えがヨーロッパ思想にはあった、っていうことをお客さんに分かってほしかった。まああの棚で、完全に色分けできたわけじゃないけれどね。例えばネオ・プラトニズムのプロチノスが神秘主義に与えた影響は大きいわけで、そんなふうに結構入り組んでいるしなあ。
 僕たち日本人はヨーロッパをイギリスやフランス、ドイツ、っていうふうに別々に考えるけれど、違うんだよね。中世からルネッサンスの頃のヨーロッパ思想っていうのは国なんかに縛られなくて、ひとつの流れがあるんだ。ルネッサンスの頃には思想の大論争が結構あって、名前が本質を表すのか否か、とか、固有名詞の論理とかね。ヨーロッパ中を巻き込む思想大論争がね、ソシュールの言語論のハシリに近いものが出てきたり、それをめぐってまた論争があったりして。ヨーロッパっていうのは長い時間をかけて思想を連綿と受け継いでいる。どんな思想もボッと出っていうのはないんだ。

★★★ 引っ掛かったキーワード、人物 ★★★

Wikipedia:神秘主義
神秘主義(しんぴしゅぎ)とは、人智の及ばない事物(神秘)が存在するとする考え方である。英語の mysticism の訳語にあたるが、 mysticism は、この立場での神学や哲学を指すこともあり、この場合は神秘主義思想、あるいは神秘思想と訳される。
神秘主義思想には、神秘を体験するための技法や体系などを含むが、合理的、科学的な手法を批判的に捉える傾向がある。だが、自然科学で得られた知見を体系に取り入れることも、また多い。


神秘とは、人間がその知識や能力をもってしても全容を把握する(=知る)ことができない事物のことで、神や、「究極の真実」「霊的世界」などがこれに含まれる。 日本語では神が秘めたること(もの)という意味。 日本文明圏においては神とはもともと先祖(かみ=上;時間的な先人)という意味から発し、それが秘め(隠し)たことという語意となる。隠す場合、(多神教的)社会システムの変化、王朝とその宗教神話の変化、王権と政治的権威の変容、イデオロギーや思想の革命的断絶に伴い、その前の世代の発言を歴史的に抹殺しようとする価値変革を伴う歴史の力にあがなっても貴重であると思われる一種の価値。あるいは現代思想を突き破る古層性を秘めた価値のこと。

[Wikipedia:]
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Wikipedia:ミシェル・フーコー
ミシェル・フーコーMichel Foucault、1926年10月15日 - 1984年6月25日)は、フランスの哲学者。『言葉と物』(1966)は当時流行していた構造主義の書として誤って読まれた。代表作に『狂気の歴史』『監獄の誕生』など。「フーコー」という表記が流通しているが、フランス語の発音に近い表記はフコーやフコである。

Wikipedia:ジル・ドゥルーズ
ジル・ドゥルーズGilles Deleuze, 1925年1月18日 - 1995年11月4日)は、フランスの哲学者。パリ第8大学(ヴァンセンヌ-サン・ドニ)教授。パリ生まれ。ほとんどパリから離れる事はなかったという。


ソルボンヌ大学で、カンギレムやイポリットらのもとで学ぶ。ただし、当時は、サルトルの影響の方が強かったが、それは哲学的な概念上の影響というより、その「時代」によるものらしい。


近世哲学史の読み直しをはかろうとする研究から、哲学者としてのキャリアをスタート。ベルクソンニーチェスピノザ、ヒューム、カントなどについて、彼独特の視点から論じた研究書を次々に書きあげる。その過程で自身の哲学を練り上げていった。

Wikipedia:ヴァルター・ベンヤミン
ヴァルター・ベンヤミン(Walter Benjamin, 1892年7月15日 - 1940年9月26日)は、ドイツの文芸評論家。思想家、エッセイスト、翻訳家、また、一部では哲学者としても知られる。


文化社会学者として、史的唯物論ユダヤ神秘主義を結びつけた。エッセイのかたちを採った自由闊達なエスプリの豊かさと文化史、精神史に通暁した思索の深さ、20、21世紀の都市と人々の有り様を冷徹に予見したような分析には定評がある。


マルセル・プルーストシャルル・ボードレールの翻訳がある。またベルトルト・ブレヒトを高く評価した。フランクフルト学派の1人に数えられる。第二次世界大戦中、 ナチスの追っ手から逃亡中、ピレネーの山中で服毒自殺を遂げた。ハンナ・アーレントは、彼を「homme de lettres(オム・ド・レットル/文の人)」と呼んだ。1929年と1932年に少年少女向けのラジオ番組に出演した。

  • ショーベン

[Wikipedia:]
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[Wikipedia:]
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  • トマス・アクイナス

Wikipedia:トマス・アクイナス
トマス・アクィナス(Thomas Aquinas, 1225年頃 - 1274年3月7日)は中世の哲学者・神学者ドミニコ会員。大著『神学大全』で知られる盛期スコラ学の代表的神学者であり、トマスが大成したスコラ学は長きに渡ってカトリック教会の公式神学となった。カトリック教会と聖公会では聖人、カトリック教会の33人の教会博士のうちの1人。

トマス・アクィナスの最大の業績は何と言ってもキリスト教思想」と「アリストテレス哲学」を統合した総合的な哲学体系を構築したことである。全体的にみれば、アウグスティヌス以来のネオプラトニズムの影響を残しつつ、トマスは神学における軸足をプラトンからアリストテレスと移していったといえる。さらにトマスはアヴェロエスなどのアラブの哲学者たちの著作を読んでその影響を受けている。その著作において、トマスはドゥンス・スコトゥスらと違い、読者にも自らの思想の軌跡を懇切丁寧に追体験させるような表現をせず、権威を持って教えるという形にしている。これは彼が啓示を受けて著作したというスタンスに立っているためであり、そのためトマスの著作は現代のわれわれの視点からはやや物足りないという感を与えるものになっている。

他に同社で、『神秘と学知』訳註など約10冊近く研究書が刊行している

  • シュタイナー

シュタイナーという名前の人はたくさんいるけど、おそらくルドルフ・シュタイナーのことだと思われる。
Wikipedia:ルドルフ・シュタイナー
ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner 1861年2月27日 - 1925年3月30日(満64歳没))は、 オーストリア帝国(1867年にはオーストリア・ハンガリー帝国に、現在のクロアチア)出身の神秘思想家アントロポゾフィー人智学)の創始者。哲学博士。

  • アンチ合理主義

[Wikipedia:]
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Wikipedia:ノヴァーリス
ノヴァーリス(Novalis, 1772年5月2日 オーバーヴィーダーシュテット - 1801年3月25日 ヴァイセンフェルス)は、ドイツ・ロマン主義の詩人・小説家・思想家・鉱山技師。初期ロマン主義の中心的人物。本名フリードリヒ・フォン・ハルデンベルク(Friedrich von Hardenberg)。「シュタイン−ハルデンベルクの改革」で知られるプロイセン宰相カール・アウグスト・フォン・ハルデンベルク(1750年 - 1822年)とは親戚。
ルートヴィヒ・ティーク、アウグストとフリードリヒのシュレーゲル兄弟らと親交をもつ。詩文芸の無限な可能性を理論と実践において追求した。雑誌『アテネーウム』に参加し、評論などを書いた。


ノヴァーリスの作品の特徴は、ゾフィーの死、いわゆる「ゾフィー体験」を中核にする神秘主義的傾向、とりわけ無限なものへの志向と、中世の共同体志向にある。後者は中世のミンネザングを主人公にする小説、『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』(日本訳通称は、『青い花』)や、宗教改革前の世界をキリスト教というひとつの文化的背景によって民族性を超えた普遍的地盤をもつ共同体として称揚した、評論『キリスト教世界あるいはヨーロッパ』にことに顕著に現れる。
ドイツ・ロマン主義を象徴する作品『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』等を未完に残して、28歳で夭折した。

Wikipedia:ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel、1770年8月27日 - 1831年11月14日)は、ドイツの哲学者。フィヒテシェリングと並んでドイツ観念論を代表する思想家である。優れた論理性から現代の哲学研究も含め、後世にも多大な影響を与えた。
ブラッドレー(F. H. Bradley)、サルトル 、ハンス・キュング(Hans Küng)、ブルーノ・バウアーらの賞賛、キェルケゴールショーペンハウアーハイデッガーシェリングらの批判など、様々な文筆家を通じ、彼の影響は広がっていった。


ヘーゲルは、古典に通じた慧眼で現実的かつ理想的な哲学を展開し、同時代のみならず後世にも大きな影響を与えた。主著の1つである『精神現象学』(1807年)は、元々の表題を「学の体系 (System der Wissenschaft) 」といい、当初は主観的精神(「意識」「自己意識」「理性」)から絶対知へと発展する過程を描いていたが、徐々に膨らんでいき、最終的には「精神」「宗教」という章が付け加えられた。イェーナ期の思索の完成ではあるが、ヘーゲル自身が認めているように、混乱している部分や後年の著作でカテゴリーが微妙に変化したものも多く、ここからヘーゲル哲学の全貌を知ることは困難である。他の著作に『エンチクロペディー』、『法哲学・要綱』などがある。なお、『歴史哲学』『美学』『宗教哲学』などはヘーゲルの死後、弟子たち(つまりヘーゲル学派)によって彼の講義ノートと聴講生のノートとを中心に編纂されたものである。

Wikipedia:ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
ルートヴィヒ・ヨーゼフ・ヨーハン・ウィトゲンシュタイン(Ludwig Josef Johann Wittgenstein [1]1889年4月26日 - 1951年4月29日)は、オーストリア・ウィーン出身の哲学者で、言語哲学分析哲学に強い影響を与えているケンブリッジ大学・トリニティ・カレッジのバートランド・ラッセルのもとで哲学を学ぶが、第一次世界大戦後に発表された初期の著作『論理哲学論考』に哲学の完成を見て哲学の世界から距離を置く。その後小学校教師になるが、生徒を虐待したとされて辞職。トリニティ・カレッジに復学して、再び哲学の世界に身を置くこととなる。やがてケンブリッジ大学の教授に迎えられた彼は、『論考』での記号論理学中心、言語間普遍論理想定、の哲学に対する姿勢を変え、コミュニケーション行為に重点をずらして自らの哲学の再構築に挑むが、結局次の著作となるはずであった『哲学探究』は完成されることなく、癌によりこの世を去る。62歳。生涯独身であった。

  • ラヴジョイの『存在の大いなる連鎖』(晶文社

存在の大いなる連鎖 (晶文全書)

存在の大いなる連鎖 (晶文全書)

千夜千冊『存在の大いなる連鎖』

かつて、平凡社から『ヒストリー・オブ・アイディアズ』全30巻というシリーズが出ていた。"Dictionary of the History of Ideas" の訳本で、トピックごとにまとめて再編集したものである。その後、元の本が、『西洋思想大事典』本巻四巻・別巻索引一巻、として出たため、今ではたぶんかえりみられることはない。

平凡社 ヒストリー・オブ・アイディアズ 全30巻 タイトル、目次、著者(2006/07/12)
http://www.asahi-net.or.jp/~kc2h-msm/pbsb/pbsb_his.htm

Wikipedia:ネオプラトニズム
ネオプラトニズム (Neoplatonism) は、プラトン(と後継者)の教説に類似する思想のことを指す。紀元3世紀ごろにプロティノスによって展開され、ルネサンス期にイタリアでも再び盛んになった。


なお、この「ネオプラトニズム」という言葉は、19世紀のシュライアーマッハー以降、文献学により、プラトン自身のオリジナルの教説と後世の追随者の思想とが区別して捉えられるようになって初めて生まれた造語であり、古代やルネサンスの人々がその思想を「ネオプラトニズム」と呼んでいたわけではないことは注意しなければならない。「新プラトン主義」と訳されることも多いが、原語の "neo-" が意味するニュアンスが消えてしまうため、ネオプラトニズムと呼ぶことが望ましい。

  • プロチノス

Wikipedia:プロティノス
プロティノス(Plotinos 205年? - 270年)は、プラトン主義(ネオプラトニズム)の創始者といわれる哲学者である。エジプト出身で、アレクサンドリアで学んだ後、ローマに移住。哲学の教師になる。主著に『エンネアデス』がある。ローマ皇帝ガリエヌスと交流があった。


プロティノスプラトン(紀元前427年 - 紀元前347年)より500年以上も後の生まれであり、当時は様々な神秘主義思想が唱えられていた時代である。ただしネオプラトニズム創始者とはいっても、プロティノス自身には独自な説を唱えたという意識はなく、プラトンの正しい解釈と考えていた。